奈良大学紀要
(Memoirs of the Nara University).
Vol.5号,
(1976.
12)
,p.276-
287
識別番号
ISSN
03892204
抄録
What is the object of Eytmological science? これはOtto Jespersenが,その著書
LANGUAGE Its Nature Development and Origin1)の一節で問いかけている問題である.
その答えの一つとして,To determine the true signification of aword があげられている・しかし,人々は,日常用いている数知れぬ語や語句について,それぞれの言葉の語源にまで逆のぼって理解している場合は非常に少ないであろうし,又それによって生活上何の不便も感ぜずに済ませていることが多い.その点について Jespersen は, Etymologytells us nothing about the things, nor even about the present meaning of a word but only about the way in which a word has come into existence. とも述べている.すなわち,ある語の語源を調べたとしても,現在その語が用いられている意味の説明にはならず,単にその語が生れるに至った由来を知るに過ぎない場合も多いということであろう.
しかしながら,ある語の Origin の由来を知ることが,その語が表わす意味の内部にひそんでいるより根本的な要素を把握するための助けになることも明らかである.特にその語が多種多様な意味に用いられている時には,その根源にあるエッセンスを把握することが,その語の総体的な理解を要易ならしめるとも云える. 一例として,英語の人名の中で,最も familiar でよく用いられる Jack という語をとりあげて考えてみたい.ジャックの名を耳にする時,人々が連想するものは何であろうか.
子供の頃に楽しんだ Jack and the Beanstalk の主人公である勇敢な男の子を思い浮かべる人は多いであろうし,トランプゲームの切札のジャックの顔を思う人もあろう.又,マザーグースの童謡の中で有名なJack and Jillの唄にみられる,水汲みバケッを持ちながら坂道を転がり落ちて行く男の子のユーモラスな姿を思うこともあろうし,まったく異なる連想で,船乗り達が持ち歩いているジャックナイフ,最近世界各地でニュースを賑わす
ハイジャック事件に思い至るかも知れない.このように,一つの名称から各々あまり関連性がないと思われるものが連想されるということは,非常に興味深いものがある.この小論においては, Jack という語の持つ意味の多様性を問題にとりあげ,その語の語源的意味,ならびにそれから派生した多様な語,又は語句の意味,あるいはそれ等が造り出された当時の歴史的・社会的背景等を参照しつつ,文学作品や児童文学作品に現われた例とか,日常生活の上で慣習的に用いられているいくつかの諺の用例などを分類,検討し,その中に共通すると思われる関連性について考察を試みた.