奈良大学紀要
(Memoirs of the Nara University).
Vol.11号,
(1982.
12)
,p.119-
131
識別番号
ISSN
03892204
抄録
自己形成という概念は,その語が示すように,あくまでも人間形成の個人的レベルでの問題としてとり扱われることが多い.しかしながら,自己形成が社会の中で様々の共同生活を行う人間の成長・発達の過程において行われるという事実から明らかなように,自己形成の真の意義は,個としての存在である人間の自己形成というとらえ方からだけでは充分に明らかにならないと考えられる.つまり,人間の成長・発達は,個人のもつ先天的素質とその人間をとりまく様々の生活環境や社会組織からの影響の中で,有機的に行われていくのである.したがって,個人の自己形成も個人の問題としてだけでは,現実にありず,必ず他の人々への影響を与える形でその自己形成がなされていくのである.そこで,自己形成は人間関係においてとらえることが必要になってくるのである.
本論文においては,以上の点をふまえて,人間の成長・発達を自発性(Spontaneitat)と受容性(Rezeptivitat)の相対的相互関係でとらえるとともに,教育を世代間のはたらきかけとしているシュライエルマッハー(Friedrich Ernst Daniel Schleiermacher, 1768-1834)の思想に基づいて考察をすすめることにする.すなわち,年少世代(jugere Generation)にある子供達が年長世代(altere Generation)のつくつた社会環境や年長世代の人々からの影響を受けながら成長・発達を遂げて,しだいに新な世代を形成していく過程において,それぞれの世代に属する人々の自己形成がいかに行われ,また,いかなる意義をもつかを明らかにしたいと思う.つまり,社会構造を世代間の関係でとらえ,その中での教育的はたらきかけをそれぞれの世代における者の自己形成の構造から解明することによって,人間社会において教育が必然的に随伴し,そのような人間社会においてのみ,人間が人間形成を行いうることを明らかにしたいと思う.