What version of Aesop's Fables in Latin was translated into Japanese by the Jesuit missionaries in the 16th century? [PART III]: Complementary study on the completion of Esopono Fabulas (last volume)
著者
遠藤 潤一
(Endo jun'ichi)
文学部
版
publisher
出版地
奈良
出版者
奈良大学
上位タイトル
奈良大学紀要
(Memoirs of the Nara University).
Vol.13号,
(1984.
12)
,p.175-
190
識別番号
ISSN
03892204
抄録
天草本イソポ物語(Esopono Fabulas)の編者はその上巻編集の際に底本とした古活字本祖本(キリシタン訳本)の外に欧本をも用いていたと推定される.その欧本を上巻の「参考原典」と呼ぶ.その参考原典は天理図書館蔵『Aesopi Phrygis, et Aliorum Fabulae』(Lugduni apud Seb. Gryphium, 1542. 以下これを1542年本と呼ぶ) のようなラテン語イソヅプ寓話集集成本であったと推定される.この1542年本はイソポ伝の題辞が天草本のイソポ伝の題辞とほぼ同じ内容であり,また,イソポ伝の形式面においても天草本と共通する特徴を備えている.そして,バビロニア王の名「Lycero」の綴り字の特徴等も天草本の場合と一致する.また,その寓話部には天草本上巻話25話中の20話の該当話が見出され,その寓話本文も天草本話と同じ内容的特徴を備えていると言える.
一方,天草本下巻は上巻の参考原典として用いられた1542年本のようなラテン語本を原典として新たに翻訳された新訳本であると推定される.1542年本の寓話部には天草本下巻話45話のすべての該当話が見出され,その話1頂も大体一致するのである.寓話本文も天草本下巻話と同じ内容的特徴を備}ていると言える.
筆者は天草本イソポ物語の成立について以上のような見解を拙著『邦訳二種伊曽保物語の原典的研究・正編;続編』(風間書房刊・昭和58年1月;昭和59年1月.以下「正編」「続編」と呼ぶ)を通じて述べた.しかし,天草本下巻の話順の問題については,「続編」の第皿部参考資料影印編の解説Ⅱにおいて,だが,天草本下巻ではどうして「鶏と下女の事」が第1話にならなければならないのかという問題などになると,この1542年本に拠って説明することは難しい.と述べたのであった.これは,1542年本が一面において天草本下巻の原典とは懸け離れた性質を有するのかという問題を残したことを意味するものである.しかし,その後,改めてこの1542年本を用いて天草本下巻の編集過程についての考察を試みた結果,この「鶏と下女の事」が天草本下巻第1話となった理由がこの1542年本を用いても説明できることがわかった.本稿ではこの事を中心にして,再び1542年本に拠って天草本下巻の編集過程を推測してみようと思うのである.